理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-48
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ポスター発表
ハイヒール形状相違が立位足圧および歩行時酸素摂取量に与える影響について
来間 弘展新田 收古川 順光信太 奈美神尾 博代宇佐 英幸柳澤 健
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抄録

【はじめに】ハイヒールは女性の間で非常に多く履かれている靴である。しかし、ハイヒールは重心を前方へ移動させることから不良姿勢となり、腰痛や足部の変形を引き起こす要因となることが知られている。我々は、この不良姿勢や足部への問題を改善するために前足部の形状を変化させ、足部への負担を軽減するハイヒールを考案した。今回、考案した形状の異なるハイヒールと従来型のハイヒールを着用した場合を比較し、立位時の足圧と歩行時の酸素摂取量の相違を検証することを本実験の目的とした。【方法】対象は健常成人女性7 名(平均年齢:21.6 歳(20 〜23 歳)、平均身長(標準偏差):161.0(4.1)cm、平均体重(標準偏差):52.8(2.5)kg)とした。被験者に従来型のハイヒール(以下、従来型)と前足部をわずかに持ち上げた改良型ハイヒール(以下、改良型)(ヒール高はいずれも3cm)を履かせ、静止立位およびトレッドミル上歩行を行わせた。なお、ハイヒールの着用順はランダムとし、一方のハイヒールでの実験後、2 時間以上の間隔をあけ、他方のハイヒールでの実験を行った。まず、被験者の目の高さかつ1m前方に設置した点を注視させ、30 秒間の静止立位を行わせた。この時の足圧を、ハイヒールのインソール部に足圧センサシートをいれ、足圧分布測定システム(F-スキャンⅡ、ニッタ株式会社)にて計測した。次に、椅子座位にて3 分間の安静を取った後、速度3.2km/hで10 分間のトレッドミル歩行を行わせた。椅子座位安静時から歩行終了まで、呼気ガス分析装置(AE-300S、ミナト医科学株式会社)を用いて、breath-by-breath法にて酸素摂取量の測定を行った。足圧分布は左右とも足部を前足部・中足部・後足部と三分割し、各領域での接触最大圧力[kg/cm 2 ]を計測し、それぞれ3 部位間の差をKruskal-Wallis検定にて確認し、多重比較にMann-Whitney検定、Bonferroniの不等式による修正を行った。酸素摂取量[ml/kg/min]は1 分ごとの平均を求め、靴による経時的変化の違いを二元配置分散分析にて検定した。統計処理にはIBM SPSS 19 を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮】すべての対象者に実験の目的・手順・予想される危険性について説明し、実験に協力することに対する了解を得た。なお、本研究は本学本キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号12043)を得て実施した。【結果】従来型の最大足圧平均値(標準偏差)は、右前足部:1.8(0.6)・右中足部:2.2(1.8)・右後足部:1.1(0.3) kg/cm 2 、左前足部:1.5(0.4)・左中足部:2.3(1.1)・左後足部:0.8(0.2) kg/cm 2 となり、改良型は右前部:1.1(0.4)・右中足部:1.91.7)・右後足部:1.2(0.5)kg/cm 2 、左前足部:1.0(0.4)・左中足部:1.1(0.5)・左後足部:1.1(0.4) kg/cm 2 であった。従来型は左前・中足部が後足部に比べ、足圧が有意に高かった。また改良型は左右とも前足部・中足部・後足部の足圧に有意差はなかった。安静時の酸素摂取量の平均値(標準偏差)と歩行6 〜10 分間の平均値(標準偏差)は、従来型:4.6(0.7)・12.8(1.2) ml・kg -1 ・min -1 、改良型:4.4(0.6)・10.7(0.9) kg -1 ・min -1 であった。二元配置分散分析の結果、交互作用に有意差がみられ、歩行中の酸素摂取量は両者に変化の違いが認められた。【考察】ハイヒールではヒール高が増す事に前足部の荷重が増すことが知られている。今回はヒール高3cmであるため、それほど著明な差ではなかったが、従来型の左足では前・中足部への荷重割合が増大していた。しかし、改良型では左右とも前・中・足部の差が生じなかった。前足部を持ち上げたことにより、重心が後方へシフトし、足圧が分散することが可能となった。これはハイヒールによる前足部への過度な荷重により起こる外反母趾などを防止できる可能性を示した。また、改良型の靴での歩行は足底圧が足底全体に分散されたことにより安定した歩行が行えるようになった結果として、歩行時の酸素摂取量の減少すなわち効率的な歩行が可能となったと考えた。効率的な歩行が可能であるため、長距離の歩行にも従来型より改良型のハイヒールは適していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】前足部を持ち上げたハイヒールを使用することにより、ハイヒールによって生じる外反母趾をはじめとする足部の変形や腰痛等も問題を防げる可能性があり、予防理学療法に活用できる。またこのハイヒールを用いることにより、効率の良い歩行を指導できる可能性がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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