理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-05
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一般口述発表
虚血性心疾患患者の運動負荷試験における運動開始時の換気応答と嫌気性代謝閾値の関係
山元 佐和子古川 順光新田 収
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抄録

【はじめに、目的】虚血性心疾患患者のリハビリテーションにおいて、運動療法の負荷量は嫌気性代謝閾値(以下AT)レベルが望ましいとされている。ATは心肺運動負荷試験(以下CPX)を実施し判定され、心疾患患者では左室駆出率などの低下のためATが低値となるとされている(Koikeら、1994)。ATの決定因子として注目されるのが酸素運搬能と酸素利用能である。Koikeら(1992)は、酸素運搬能を反映する指標として一定運動負荷開始時の酸素摂取量(以下V(dot)O2)の時定数(以下τon)をあげている。一定運動負荷開始時の換気応答は、負荷開始直後に急激な換気の亢進が起こる第1相、V(dot)O2が指数関数的に増加する第2相、定常状態の第3相に分けられる。特に第2相では、V(dot)O2の指数関数的な増加の割合を示すτonが最高酸素摂取量や酸素利用能などを反映する指標として注目されている。このように、一定運動負荷開始時の換気応答は運動耐容能との関係が示唆されているものの、その分析方法は一般的であるとは言いがたい。そこで、本研究は虚血性心疾患患者のCPXにおける運動負荷開始時のV(dot)O2増加動態とATとの関係を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は、当院に入院し虚血性心疾患に対するリハビリテーションを実施し、CPXを行った55歳以上75歳未満の男性患者30名のうち、慢性心房細動および腎機能障害を有するものを除外した17名とした。CPXは自転車エルゴメータを用い、一定運動負荷でのウォーミングアップを4分間行った後1分あたり10WattのRamp負荷による漸増運動負荷を行った。対象の平均年齢(範囲)は64.5(56-74)歳、身長の平均値(標準偏差)は164.8(6.0)cm、体重の平均値(標準偏差)は66.1(11.7)kgであった。評価項目は、一定負荷でのウォーミングアップである運動開始時4分間の体重あたりのV(dot)O2積分値[ml・秒/kg](以下、V(dot)O2積分値)、AT時V(dot)O2 [ml/kg/分]、最大運動時の心拍数と安静時心拍数の差(以下ΔHR)[回/分]であった。分析データは診療録より得たもの、あるいは診療録より得たデータから算出したものとした。統計解析はIBM SPSS statistics(Ver.20)を用いて各評価項目のPearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、対象者に対し書面により研究目的とデータの使用に関する説明を行い、当院倫理委員会の承認を得て行われた。【結果】V(dot)O2積分値の平均値(標準偏差)は26.0(4.8)ml・秒/kg、AT時V(dot)O2の平均値(標準偏差)は10.6(1.9)ml/kg/分、ΔHRの平均値(標準偏差)は42.6(13.7)回/分であった。V(dot)O2積分値に対するPearsonの相関係数は、AT時V(dot)O2でr=0.70(p<0.01)、ΔHRでr=0.67(p<0.01)であり、AT時V(dot)O2およびΔHRとも有意な相関を認めた。また、AT時V(dot)O2に対するΔHRのPearsonの相関係数はr=0.55(p<0.05)であり、有意な相関を認めた。【考察】今回、AT時V(dot)O2に対して自律神経系の指標として用いられるΔHRで有意な相関を認めたことから、ATの決定因子として自律神経系の影響が示唆される。心臓内の自律神経系は虚血に対する脆弱性が心筋より高い(Martinら、1974)とされており、平木ら(2012)も、糖尿病を合併した虚血性心疾患患者ではATが低値を示す一因として自律神経の影響を挙げている。さらに今回ΔHRとV(dot)O2積分値との間に有意な相関を認めた。一般に、一定運動負荷開始直後に急激な換気の亢進が起こる第1相では、筋からの代謝産物が受容器に到達する前段階であることから神経性の因子の関与が示唆される。今回の結果から、運動開始後から4分の間に自律神経系の影響が現れていると考えられる。また、V(dot)O2積分値に対するAT時V(dot)O2で有意な相関を認めたことから、運動開始時の換気応答はATを反映する指標となり得ると考えられる。心疾患患者において、一定運動負荷時第2相のτonは酸素運搬能を反映する指標として報告(Koikeら、1992)され、ATとの関連も示唆されている。このことから、今回の運動開始時4分間の換気応答は、自律神経系の影響が現れているばかりでなく、第2相の反応をも反映し、ATを予測する指標になり得るものであると考えられる。【理学療法学研究としての意義】虚血性心疾患患者のCPXにおいて運動開始後から一定運動負荷を行う4分間の体重あたりのV(dot)O2積分値は、最大運動負荷と比べ比較的容易かつ低い負荷で安全に結果が得られる指標である。このように、運動開始時に得られる換気応答を用いて運動耐容能が予測可能であれば、従来のAT決定方法と併用することで個々の症例にあわせたより安全な運動処方が可能になる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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