理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-54
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ポスター発表
アロマテラピーの経験の違いが上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響
由留木 裕子鈴木 俊明岩月 宏泰
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抄録

【はじめに、目的】アロマテラピー(以下、アロマ)はリラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。昨年の全国学会において、アロマ経験のない方にラベンダー3 滴の刺激を行うと上肢脊髄神経の興奮性が吸入中は増加し、吸入終了後に低下すると報告した。そこで、今回はラベンダー3 滴の刺激がアロマの経験がある場合とない場合にどのような上肢脊髄神経機能の興奮性に影響を与えるのかについてF波を用いて検討した。【方法】対象は、嗅覚に障害がない健常者26 名(男性16 名、女性10 名)、平均年齢27.4 ± 8.3 歳とした。この内、アロマの経験あり群15 名(男性9 名、女性6 名)、平均年齢28.8 ± 9.7 歳、アロマの経験なし群11 名(男性7 名、女性4 名)、平均年齢25.5 ± 5.9 歳 であった。気温(24.3 ± 0.8℃)と相対湿度(60.3 ± 10.4%RH)の室内で、被験者を背臥位とし酸素マスク(中村医科工業株式会社の中濃度酸素マスク)を装着し安静をとらせた。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3 滴滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。ビニール袋をマスクに装着し2 分間自然呼吸をおこなわせた。F波測定は安静時、吸入開始時、吸入1 分後、吸入終了直後、吸入終了後5 分、吸入終了後10 分、吸入終了後15 分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とし、安静時試行と各条件下の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を得て実施し、被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で行った。【結果】対象者全員のF波出現頻度において安静時と比較して吸入終了後5分、10分、15分において有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比と立ち上がり潜時においては安静時と比較して有意差を認めなかった。しかし、出現頻度と振幅F/M比において吸入中は増加傾向を吸入終了後は低下傾向を示している。アロマの経験あり群では結果にばらつきがみられた。アロマの経験のない群においてF波の変化がみられた。F波出現頻度において、ラベンダー吸入1 分後は安静時と比較して増加傾向を示し、吸入終了後5 分、10 分では安静時と比較して有意な低下を示した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1 分後は安静時と比較して有意に増加を示し(p<0.05)、吸入終了後5 分より低下傾向を示した。【考察】今回の結果から、ラベンダーの刺激は特にアロマ未経験者において上肢脊髄神経機能の変化をきたしやすいということが推測された。アロマの経験あり群の結果においてばらつきがみられたことについては、匂いを繰り返し経験することで匂いに対する快の感情または不快な感情が強まるということが報告されている。このことから、アロマ経験あり群では結果にばらつきが出たのではないかと考える 。アロマ経験なし群でラベンダー吸入開始時、吸入1 分後に上肢脊髄神経機能の興奮性が増大したことについてはアロマの経験がないために、匂いに対して不安な感情を増強した結果、この匂いが精神的ストレスとなり、交感神経の働きが活発になったのではないかと考える。その結果として心拍数が増加し、副腎髄質に働きかけてアドレナリンが分泌され、脳幹網様体賦活系を興奮させ、上肢脊髄神経機能の興奮性を増大させたのではないかと考える。脊髄神経の興奮性が低下したことについては、ラベンダーの主要成分であるリナロールが呼吸により体内に吸収され、血液脳関門を通り脳に作用したものと考えられる。梅津(2009)によるとリナロールは抗不安様作用、筋弛緩作用などの行動薬理作用を発揮するとされている。まだ作用機序は解明されていないが、リナロールが脳に抑制的に働く可能性が高いと考えられる。また、渡邊ら(2003)による脳波解析では、ラベンダーの香りによって運動前野近傍や運動野近傍でδ波とθ波の振幅増加 、前頭連合野 や体性感覚野近傍 でもδ波とθ波の上昇傾向がみられたと報告している。δ波はぐっすり寝ている時に現れ、θ波は眠くなってきた時に現れる脳波であることから、運動機能系の活性レベルの低下傾向があり、かつ傾眠傾向があると考えられることから上肢脊髄神経の興奮性が抑制されたと考えた。【理学療法学研究としての意義】ラベンダーを用いたアプローチは特にアロマの未経験者において筋緊張の変化が期待できると考える。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に運動療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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