理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
神経筋電気刺激の最大刺激強度と漸増時間が筋収縮による関節トルクに及ぼす影響
榊 善成金子 文成青木 信裕滝川 光一大西 郁夫
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p. Fa0181

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抄録

【はじめに、目的】 神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:以下NMES)とは,電気刺激で筋を刺激し収縮させる方法である。これまでに我々の研究グループは,NMESにおける最大刺激強度の増加,または漸増時間の延長に伴い,上腕二頭筋への刺激によって生じる肘関節屈曲角度が大きくなることを報告した(榊ら,2010)。また,最大刺激強度の増加に伴い,刺激によって生じる肘関節屈曲トルクが大きくなることを報告した(榊ら,2011)。我々は,運動補助手段として新しいシステムによる機能的なNMESを開発している。その実現のためには,刺激条件とそれによって生じる関節トルクとの関係を明らかにする必要がある。NMESを実施する際の刺激条件として,漸増時間がある。漸増時間とは,電気刺激開始から最大電気刺激に至るまでの時間であり,重要な設定のひとつである。しかし,漸増時間の違いが関節トルクに与える影響は明らかではない。本研究では,独立変数をNMESの刺激条件である最大刺激強度と漸増時間とした場合に,それらとNMESで生じる関節トルクとの関係を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,神経学的・整形外科学的な既往歴,現病歴のない男性15名とし,対象側は右側とした。測定姿勢は端座位とし,前腕を実験台上に置いた。その肢位は,肩関節軽度屈曲,内外転・内外旋0°,肘関節屈曲45°,前腕回外とした。NMESの実施には,低周波治療器(イトーES420)を使用した。刺激電極は,陰極を上腕二頭筋筋腹中央,陽極を肩峰に貼付した。刺激条件の設定は,刺激周波数50Hz,パルス幅400μsとし,対称性二相性のパルス波を用いた。最大刺激強度は10mA,15mA,20mA,25mAとし,強い痛みを生じない範囲とした。また,漸増時間は1秒,2秒,3秒,4秒,5秒,6秒に設定した。関節トルクの計測にはオリジナル装置を作成し,センサとして動ひずみ測定器(DPM-612B)を使用した。動ひずみ測定器から出力された電圧をサンプリング周波数1kHzでA/D変換した後に,オリジナルプログラム(LabView 2011)を用いて高域遮断10Hzでフィルタ処理を行った。その後オフラインで関節トルクに換算した。関節トルクは,漸増時間の区間における肘関節屈曲最大トルクを用いた。得られた結果は,最大刺激強度(10mA,15mA,20mA,25mA)と漸増時間(1秒,2秒,3秒,4秒,5秒,6秒)を要因とした反復測定による二元配置分散分析を実施した。交互作用があった場合,単純主効果の検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘンシンキ宣言に沿って実施した。また,事前に研究内容等の説明を十分に行った上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行った。【結果】 関節トルクは,漸増時間,最大刺激強度ともに有意な主効果があった(漸増時間:F=5.71,p=0.01,最大刺激強度:F=42.62,p<0.0005)。さらに,これら二要因には有意な交互作用があった(F=4.69,p=0.01)。単純主効果の検定の結果,最大刺激強度25mAにおいて,漸増時間1秒,2秒,3秒と比較して6秒における関節トルクが有意に高値を示した(1秒:p<0.0005,2秒,3秒:p=0.04)。全ての漸増時間において,最大刺激強度10mAと比較して20mA,25mAにおける関節トルクが有意に高値を示した(1秒,2秒,3秒,4秒,5秒,6秒:p<0.0005)。また,最大刺激強度15mAと比較して25mAにおける関節トルクが有意に高値を示した(1秒:p=0.01,2秒,3秒,4秒,5秒,6秒:p<0.0005)。そして,漸増時間2秒,4秒,6秒においては,最大刺激強度15mAと比較して20mAにおける関節トルクが有意に高値を示した(2秒,4秒,6秒:p=0.04)。さらに,漸増時間6秒においては,最大刺激強度20mAと比較して25mAにおける関節トルクが有意に高値を示した(p=0.01)。【考察】 本研究結果から,最大刺激強度が同様であるにも関わらず,漸増時間の延長に伴い刺激により生じる関節トルクが大きくなることが明らかになった。Gorgeyらは,刺激時間が長くなると,運動単位の動員数が増加すると報告した(Gorgey et al, 2008)。本研究においては,漸増時間の延長によって,上腕二頭筋の運動単位の動員数が多くなり,関節トルクの生成に貢献した可能性がある。よって,NMESにおいて目的とする関節トルクを生じさせるためには,刺激条件として漸増時間を考慮する必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は,中枢神経系の障害などにより自発的運動が困難な症例に対して,筋へ適切な制御を行うためのNMESの刺激条件を考えるための,基礎的知見になると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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