理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
老化およびバランス運動介入が運動学習転移と中枢神経系シナプス機能修飾因子の発現に与える効果
─老化促進モデルマウスを用いた実験動物学的研究─
前島 洋金村 尚彦西川 裕一国分 貴徳高柳 清美
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キーワード: 運動学習, シナプス, マウス
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p. Ab0455

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者を対象とする運動療法、とりわけ移動能力の改善を目的とする運動療法において、そのコアとなるバランス機能の改善が重要となる。バランス運動の学習においては、限られたリハ環境での特定のタスクの習得が波及的にその後の異なる環境におけるバランス運動に及ぼす運動学習転移が期待される。ヒトを対象とする臨床研究において、介入内容や背景となる環境の差異により、ある運動学習の転移効果の検証には限界を伴うとともに、その検証には大規模な無作為化対照試験を必要とする。一方、これらの制限は条件設定の可能な実験動物においては制御が容易である。そこで、本研究では、老化モデル動物を用いて、老化とバランス運動介入という2つの要因が運動学習転移とその背景となる中枢神経系(大脳皮質運動野、小脳皮質)におけるシナプス機能修飾因子の発現に与える影響について実験動物学的に検討することを目的とした。【方法】 老化モデル動物として老化促進モデルマウス28匹を1) 成体・対照群、2) 成体・運動群、3) 高齢・対照群、4) 高齢・運動群の4群(各群7匹)に群分けした。実験開始時における週齢は成体では10週齢、高齢では44週齢であった。運動介入のバランス運動として、マウスの協調性試験としても用いられるローターロッド運動(25rpm、15分間)を週3回の頻度で4週間課した。運動機能試験として同上のローターロッド試験に加えて、beam walking test、incline test、ぶら下がり試験を介入前後において実施した。所定の行動分析の後に屠殺し、大脳皮質運動野および小脳皮質を採取した。シナプス機能・修飾因子として、神経栄養因子(NGF, BDNF, NT4, NT3)およびその受容体(Trk受容体およびp75)、皮質における主要なシナプス受容体であるグルタミン酸作動性NMDA受容体(NR1, NR2Aサブユニット)およびAMPA受容体(GluR1, GluR2サブユニット)のmRNA発現量について、リアルタイムPCR法における比較Ct法を用いて定量した。統計解析として2元配置分散分析法を用いて、老化と運動介入の2つの主効果について検証し、交互作用が認められた場合には、水準ごとに1元配置分散分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は埼玉県立大学実験動物委員会の承認のもとで行われ、同委員会の指針に基づき実験動物は取り扱われた。【結果】 運動機能試験の結果、ローターロッドの耐久時間については、運動介入の主効果が認められ、延長した。beam walking testの所要時間については老化と運動介入の両主効果が認められ、交互作用も認められた。1元配置分散分析の結果、対照、運動の何れのマウスにおいても老化により所要時間が延長していた。また、成体、高齢の何れにおいても運動介入によりこの所要時間は短縮した。incline testについては、老化と運動介入の何れの主効果も認められ、老化、運動介入によって耐久角度が増加した。ぶら下がり試験については、老化により耐久時間は短縮したが、運動介入の効果は認められなかった。シナプス機能修飾因子mRNAの発現に関しては、小脳皮質におけるBDNF, NT3, NT4の発現に関して老化による主効果が認められ減少した。大脳皮質運動野および小脳皮質におけるその他のmRNA発現に対する老化、運動の効果は認められなかった。【考察】 複数の運動機能試験において、老化による成績の退行は認められても、4週間のローターロッドを用いた介入によりロッドの成績に加えて、beam walking、incline testとった協調性、バランス機能を伴う運動タスクに改善が生じ、運動学習転移が確認された。それに対し、主に筋持久を要するぶら下がり試験への有意な学習転移は認められなかった。一方、皮質シナプス機能修飾因子のmRNA発現に対する運動介入の効果は認められなかった。運動学習に伴うシナプス修飾として遺伝子発現の所見が確認されなかったことからも、シナプス受容体のリン酸化を伴う受容体の活性や集積の変容といった遺伝子発現の修飾を伴わないシナプス機能修飾が関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、限られたリハ環境におけるfocal balance exerciseの波及的なバランス運動学習転移の可能性について実験動物学的に示し、その有効なfocal exerciseの選択の重要性について喚起するものである。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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