日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P003
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発表要旨
重力変形する火山灰被覆斜面堆積物の強度特性-阿蘇カルデラでの事例-
*佐藤 剛若井 明彦後藤 聡木村 誇
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抄録

はじめに 2012年7月の九州北部豪雨を誘因とし,熊本県阿蘇地方では崩壊を契機とした甚大な土砂災害が発生した。佐藤ほか(2017)は,阿蘇カルデラ内において降下テフラとテフラ混じりのクロボク土(以降,クロボク土と呼ぶ)からなる互層が複雑に重力変形している斜面堆積物(図-1-A)を観察し,荷重痕の存在から変形の原因をクロボク土層の流動によるものであることを説明した。また,今後の豪雨により重力変形した堆積物が再び流動化し崩壊する可能性を指摘した。しかしながら,将来的な崩壊の可能性については,流動によってクロボク土層の強度が低下したか,あるいは強度が上昇していないか,力学的特性を確認することが求められる。前者の場合,流動にともないクロボク土層の土粒子間の結合が弱まることで強度低下すると考えられるのに対し,後者の場合,クロボク土が流動後に再堆積する過程で土粒子が再配列すること,また上載荷重による圧密で強度が逆に大きくなるとも考えられるからである。

方法と結果 図-1-Aに示した斜面堆積物の強度特性を把握するため,原位置試験と土質試験を実施した。原位置試験には土層強度検査棒(土木研究所,2010)を用いたベーンコーンせん断試験を採用した。対象としたのは,変形および非変形域のクロボク土(F層)と,その下位にある往生岳スコリア(OjS;H層)である。各層で試験を実施したのは,実線で示した範囲内にある。非変形域と変形域のクロボク土の最大せん断応力の結果は,変形域のクロボク土で相対的に低下していることがわかる(図-1-B)。参考に測定結果から求められるクロボク土の粘着力(c)と内部摩擦角(φ)は,非変形域のものでcが22.5,φが29.4°,変形域のものでcが14.3,φが32.0°だった。内部摩擦角の値はおおまかには変わらないが,変形域の粘着力は低くなっている。非変形域では,OjSも対象に試験を行っているが,最大せん断応力は,クロボク土と比較し高い値を示している。土質試験はクロボク土層を対象に土粒子の密度試験,土の湿潤密度試験,土の含水比試験を行った。試料は非変形域のK-1,変形域のK-2(図-1-A)から採取した。クロボク土の土粒子の密度は,非変形域で2.79 g/cm3,変形域で2.53 g/cm3と同じ層準ではあるが,若干変形域で小さくなっている。湿潤密度は非変形域で1.32 g/cm3,変形域で1.15 g/cm3,乾燥密度は非変形域で0.68 g/cm3,変形域で0.59 g/cm3と,湿潤密度・乾燥密度ともに変形域のクロボク土で低下している。これに対応するように間隙比も非変形域で3.10,変形域で3.29と後者で高くなっている。

考察とまとめ 非変形域のクロボク土の最大せん断応力はH層を構成するOjSよりも小さい値を示した。佐藤ほか(2017)は非変形域における飽和透水係数が,クロボク土で9.83×10-5 m/s,OjSで8.12×10-6 m/sとクロボク土で高い値を示すことを報告している。これらの物性の違いを反映し,豪雨を契機としてH層の上位でF層の間隙水圧が上昇し流動変形したと考えられる。また,非変形域と変形域におけるクロボク土の湿潤および乾燥密度は,変形域で低い値を示すとともに,間隙比も高くなっている。このような低密度の堆積物がせん断を受けると,負のダイレイタンシーが生じて有効応力が減少することが予測される。すなわち,豪雨時の流動変形により土層がほぐされた結果(土粒子間の結合が弱くなり),変形前よりも強度低下した状態にあると考えられる。

【文献】土木研究所材料地盤研究グループ地質チーム(2010):土層強度検査棒による斜面の土層調査マニュアル(案),土木研究所資料,4176号,40p.佐藤ほか(2017):阿蘇カルデラ内で発見されたテフラ被覆斜面堆積物の重力変形,日本地すべり学会誌,54,199-204.本研究はJSPS科研費JP17K01232の助成を受けた。

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