日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 424
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「京都市明細図」を用いた近代京都の景観復原
*赤石 直美松本 文子瀬戸 寿一飯塚 隆藤矢野 桂司福島 幸宏
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抄録

_I_ 研究目的 近代京都の景観を復原する際,民間会社や個人が作製した地図は,地形図では把握されない詳細な情報を記載している場合があり,有益な資料として活用されている.例えば,土地台帳の附属、地図である地籍図(公図)を基にして,大正元(1912)年10月に京都地籍図編纂所によって発行された『京都地籍図』(1/1200~1/2000)は,京都市の土地利用の詳細を知る地図として挙げられる.しかし地籍図では,宅地でも商業施設なのか民家なのかといった建物用途の違いまで明らかにできない.したがって,近代の京都について,その建物の詳細まで復原した研究には限界がみられた. そのような状況のなか,京都府立総合資料館において「京都市明細図」が2010年11月より新たに公開された.それは,火災保険の利率を算定するために各都市で作成された,火災保険地図・火災保険特殊地図・火保図などと呼ばれる地図である.京都市明細図には,建物用途のほか階層や構造まで記されており,建物ごとに利用の違いを明らかにできる. 本研究は,今回新たに公開された京都市明細図を用いて,近代京都の景観復原を試みる. _II_ 京都市明細図の概要  京都市明細図を所蔵する京都府総合資料館の解説によれば,今回見つかった地図は,昭和2(1927)年頃に大日本聯合火災保険協会京都地方会が作成した図面に,昭和26(1951)年頃までに訂正・加筆等が行われたものである.地図の範囲は,作成当時の京都市域,東は東山山麓,西は西大路附近,南は十条通,北は北山通周辺までである.管見の限り,京都明細地図と同時期・同程度の精度の地図は確認されておらず,当地図は近代京都を知る基礎資料として非常に価値があるといえる.  京都市明細図の縮尺は1200分の1であり,一枚の大きさは38cm×54cm程度,全体は291枚(図面286枚,表紙・全体図5枚)で構成されている.ただし,全体図に記載されていながら欠けている図面が3枚ある.原図の作製年は昭和2年であるが,昭和26(1951)年3月まで調査・加筆された事が確認される.また,旧図の上に新図が重層的に貼附されている部分もあった.さらに,商店などには赤,住宅には緑,工場などには青,社寺には黄色,官公署などには橙,堅牢建築物などには黒と彩色が加えられている.それらの彩色は,戦時中に建物疎開によって取り壊された建築物にはされていないことから,終戦後の加筆と思われる.そして,京都市明細図の大きな特徴は,商店の小売品目や病院の診療科名などが細かく記載されていること,建物の階数や構造が数字・記号で記入されていることにある. 以上から,京都市明細図を用いることで,昭和初期の建物用途や商業施設の分布の詳細を復原することができると考える. _III_ 京都市明細図のGIS化 本研究で取り上げる京都市明細図には,商店の小売品目に加え色分けや書き込みなど多様な情報が記されており,それらを有効に管理し景観復原を行う必要がある.本研究では,地図データをGIS化することにより,土地ごと・建物ごとに様々な情報を付加しながらデータを管理し,それらを比較検討する.  今回の発表では,特に京都市中心部の三条通と四条通の南北間の新町通と河原町通間に含まれる地域を対象として分析を行う. _IV_ 結果と今後の課題  京都市明細図を用いることで,昭和初期の京都市中心部の通景観が詳細に復原される.具体的には,建物の階層についての数字を基に,町家か否かといった通りに面する建物の形状がより実態に即した形で把握される.また,一見すると同じような商店が並んでいるようでも,小売の品目には違いがみられ,それらを考慮した景観の復原が可能である.さらに,京都地籍図や過去の空中写真などと重ねることで,土地所有者と利用者との相違や,土地一筆と建物立地との相違なども検討できる. 今後は,現在も残る町家といった歴史的建造物の分布との関連性,現在と過去での商店の立地の相違なども検討し,京都の都市景観の時系列的な変遷を明らかにしていきたい. 参考文献 総合資料館メールマガジン第111号 京都市明細図の公開 京都府総合資料館 2010年12月29日付 小鍛冶 恵・内田 弦・清水英範・布施孝志(2007)都市史研究への火災保険特殊地図の応用可能性―戦前・戦後の街並み調査に向けて―.G空間EXPO/地理空間情報フォーラム 学生フォーラム研究発表論文.

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