炭層内でのガスの挙動や排出のタイミングについては未だ不明な点が多い.本研究では,坑井試料を用いて石炭から脱着するガス,石炭に残留するガスのガス組成及び炭素同位体組成から,石炭内部での熱分解炭化水素ガスの挙動や脱着にともなう同位体分別について考察した.検出されたメタンとエタンの炭素同位体組成の差が小さいことから,試料を採取するまでに軽いメタンが石炭から排出されたと考えられ,掘削から試料採取までに失われた測定不可能なロストガスである可能性がある.この場合,掘削時の比較的短時間において,吸着能の高い炭層内をメタンが移動するときに大きな同位体分別が生じていることを示唆する.