2016 年 73 巻 3 号 p. 252-257
セルロースは汎用の溶媒には溶解しない.塩化リチウムを含んだアミド系溶媒はセルロースを良好に溶解するものの,その溶解速度は非常に遅い.この点が,セルロースの分子特性についての研究,さらには種々の応用研究を妨げる要因となっている.そこで本研究では,セルロースの溶解促進法の開発を目的として種々の前処理とその過程におけるセルロースの分析を行った.その結果,エチレンジアミンによるセルロースの膨潤と,それに続くメタノールでの溶媒置換がセルロースの溶解促進には有効であることがわかった.この処理により,セルロースの結晶はセルロースIIIに転移していた.凍結乾燥処理もまた有効であった.これらの処理は,セルロースの分子量を低下させないことも明らかとなった.このような処理を経て得られたセルロース溶液を用いて希薄溶液物性および粘弾性特性を測定し,セルロースの分子特性の評価を試みた.