日本薬理学雑誌
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特集:イオンチャネル・トランスポーターを標的としたがん創薬研究の新展開
がん創薬標的としてのカルシウム活性化カリウムチャネル
大矢 進鬼頭 宏彰梶栗 潤子
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2019 年 154 巻 3 号 p. 108-113

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抄録

カリウムチャネル(Kチャネル)は,膜電位を調節することでカルシウム(Ca2+)シグナルを修飾し,がん細胞の増殖・移動に関与している.そのためKチャネルは,がんの発症・進行・悪性化に関与し,分子腫瘍マーカーやがん薬物療法の標的分子として注目されている.Ca2+活性化Kチャネルは電気生理学的特性の違いにより分類され,KCa1.1,KCa3.1,KCa2.1-2.3が大腸がん,乳がん,前立腺がん,腎細胞がん,肝細胞がん,メラノーマ,グリオーマに高発現している.がんエピジェネティクス研究の進展により,DNAメチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)阻害薬といったエピゲノム薬が開発され,様々ながんへの臨床適応が期待されている.我々は,乳がんや前立腺がんにおいて,KCa3.1転写が選択的HDAC2/HDAC3阻害薬により抑制されることを見出した.また,乳がん,特にトリプルネガティブ乳がんの薬物治療として期待されているビタミンD受容体アゴニストや抗アンドロゲン薬が,それぞれの核内受容体シグナルを介したKCa1.1の転写抑制とタンパク質分解促進により,KCa1.1活性を阻害することを見出した.抗アンドロゲン薬によるKCa1.1活性阻害には主にタンパク質分解促進が関与しており,KCa1.1タンパク質分解の促進にユビキチンE3リガーゼFBW7やMDM2の発現亢進が関与することを明らかにした.最近,がん免疫監視システムにおけるKチャネルの役割が注目されている.我々は,インターロイキン-10(IL-10)産生性のヒトTリンパ腫細胞において,KCa3.1活性化薬がカルモジュリンキナーゼII/Smadシグナル経路を介してIL-10の発現・産生を抑制することを見出し,KCa3.1活性化薬ががん微小環境の制御性T細胞によるがん免疫監視システムからの逃避を阻止する可能性を示した.

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