2019 年 153 巻 4 号 p. 167-171
大脳皮質を構成する興奮性神経細胞は,実際に機能する場所ではなく脳室帯付近で誕生し,脳表層までの長い距離を移動して整然とした層構造を形成することが知られている.この神経細胞移動の制御機構の解析は,疾患の原因遺伝子を突破口にした研究や遺伝子改変技術を用いた研究を中心に行われてきた.これらの方法により,いくつかの重要な分子が同定されてきたが,神経細胞移動は連続的な形態変化を伴う多段階の移動であるため,それぞれの分子が移動過程のどの段階を制御しているかなどの詳細な解析は困難な面もあった.これに対して,大脳皮質のスライス組織を用いた薬理学的アプローチにより,様々な知見が得られてきた.薬剤添加実験は,(i)簡便に多くの分子の機能阻害実験が可能である,(ii)一過的に急速な機能抑制を行えるため経時的な形態変化に対する影響を詳細に解析できる,(iii)サブタイプの多い分子をまとめて機能阻害できる場合がある,などの利点がある.本項では,大脳皮質形成における神経細胞移動の制御機構について,主に薬理学的なアプローチから得られた知見を中心に紹介したい.