日本薬理学雑誌
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総説
哺乳動物における非神経性アセチルコリンの発現とその生理作用
川島 紘一郎
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2006 年 127 巻 5 号 p. 368-374

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抄録

Acetylcholine(ACh)は,神経伝達物質として一般には理解されているが,生物進化の過程を辿ると,真性細菌や始原菌を始めとして,神経系をもたない真核生物にも発現している.したがって,AChは,局所における細胞機能調節物質,あるいは細胞間の情報伝達物質として生物が出現した極めて初期より発現しており,神経系をもつ生物が出現した際に神経伝達物質の一つとして利用されたものと考えられる.哺乳動物において,非神経性AChは,1.生殖器官(胎盤と羊膜),2.免疫系細胞,3.表皮ケラチノサイト,4.気道上皮細胞と小細胞性肺癌細胞,5.血管内皮細胞などに発現が認められている.これらの細胞や器官には,ACh受容体(AChR)を始めとして,神経系と同じコリン作動系の構成要素が発現している.非神経性AChは,限局された微小環境に存在するAChRに,オートクラインあるいはパラクライン的に作用して,細胞増殖,細胞間接着,遊走,分化,あるいはアポトーシスなどの微細な調節に関与していることが明らかになってきた.これらの非神経性AChを標的として,新薬開発の可能性も指摘されている.

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