日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:ストレスと脳
ストレス応答のかなめCRH遺伝子
井樋 慶一
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 126 巻 3 号 p. 174-178

詳細
抄録

ストレスから自らを防御するためには糖質コルチコイド(GC)が不可欠であるが,中枢性に糖質コルチコイド合成・分泌を制御するのが視床下部のコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)ニューロンである.ヒトでもげっ歯類でもCRHは視床下部室傍核(PVN)の小型神経細胞で産生される.CRHニューロンにはバゾプレッシン(AVP)が共存し,両者が下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌を調節する.CRHニューロンの活動性はGCなどの液性因子および入力神経終末から放出される神経伝達物質によって調節されている.たとえば実験動物PVN内に代表的神経伝達物質の一つであるノルエピネフリン(NE)を注入するとCRH遺伝子発現が増加することから脳内NE神経はCRHニューロン刺激系と考えられる.CRHとAVPは共に小型神経細胞に存在するにもかかわらずストレス時これらの遺伝子発現は必ずしも平行しない.この現象を説明する細胞内メカニズムとして両遺伝子転写機構の違いがあげられるが,CRHとAVPによる二重支配はストレス防御という視点からは生体応答の多様性の一つとして理解される.ストレスは様々な病態と深く関わっており,脳内ストレス情報処理機構の解明がストレス関連疾患の治療・予防に寄与するものと期待される.

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top