日本薬理学雑誌
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ミニ総説「新規薬物標的としてのメカノトランスダクション機構の解明とその応用」
新規MSチャネルSAKCAと新規MSチャネルブロッカーGsMTx-4
曽我部 正博成瀬 恵治唐 瓊瑶
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2004 年 124 巻 5 号 p. 301-310

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抄録

あらゆる細胞は多様な機械刺激(張力,圧力,ズリ応力など)に対して様々な応答を示すが,その仕組みはよく分かっていない.その最大の理由は,機械刺激の受容体(センサー)の分子実体や作動原理が不明な点にある.現在実体が分かっている機械センサーは,電気生理学的な根拠が明瞭なMS(mechano-sensitive)チャネルと呼ばれる一群のイオンチャネルのみである.ただし,分子構造までが明らかなMSチャネルはごく一部に過ぎない.その中で細菌由来のMSチャネル(MscL,MscS)についてはX線結晶解析によって高次構造が分かっており,詳細な構造機能連関の研究が進行中である.一方,大方の関心事である高等生物のMSチャネルについては,多くの候補分子はあるものの,分子構造(1,2次構造)が既知でかつ詳細な電気生理学的解析に耐えるのは,2PドメインKチャネル(TREK/TRAAKファミリー)と本稿で紹介する心筋由来のSAKCAチャネルぐらいである.それ以外のMSチャネル遺伝子候補はまだ100%確定という状態ではない.一方で,MSチャネルに対する特異的ブロッカーの欠如もこの分野の研究を遅らせている原因の一つである.長い間3価のランタノイドであるガドリニウム(Gd3+)がブロッカーとして用いられてきたが,特異性が低いために種々の制約があった.しかし,ごく最近特異性の高いブロッカーとして期待される蜘蛛毒由来のGsMTx-4という35-merのペプチドが精製された.大変興味深いことに,GsMTx-4には伸展誘導性の心房細動を抑制する効果が認められるので,このペプチドをベースにした心疾患治療薬開発の可能性がクローズアップされてきた.本稿ではMSチャネルの研究の現状を紹介した後,我々が同定した心筋MSチャネルの性質,およびそれに対するGsMTx-4の作用機構について紹介する.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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