環境科学会誌
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一般論文
農薬およびその環境変化体の変異原性物質生成能における定量的構造活性相関解析
高梨 啓和浜 知広中島 常憲大木 章上田 岳彦松下 拓近藤 貴志亀屋 隆志
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キーワード: Ames試験, 塩素処理, MFP, OPLS
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2016 年 29 巻 5 号 p. 229-237

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抄録

農薬は,施用された後に水環境中で様々な環境変化体(Pesticide Transformation Products in Water environments: PTPWs)に変化し,浄水場における塩素消毒工程において農薬とともに塩素処理され,さらなる変化体を生成する可能性がある。著者らは,すでに,一部の農薬やそのPTPWsの塩素処理実験を行い,変異原性物質生成能(Mutagen Formation Potential: MFP)を測定して報告した。本研究では,すでに報告した物質に加えて,新たに21種類の農薬および27種類のPTPWsの変異原性強度,21種類の農薬および35種類のPTPWsのMFP値を測定し,すでに報告した結果とあわせて再度解析することより,農薬およびPTPWsの変異原性強度が塩素処理によってどのように変化するかを検討した。その結果,多くの農薬やPTPWsの変異原性は陰性であり,問題がないことが確認された。一方,塩素処理前に陰性であった農薬の57%,PTPWsの56%が塩素処理により変異原性が陰性から陽性に転じた。このことから,浄水処理における塩素処理の前に,活性炭吸着処理などで農薬・PTPWsを除去することの重要性が示された。また,農薬からPTPWsへの変化がMFPの削減に繋がるか否かを検討した結果,試験した物質の70%の農薬は,PTPWsに変化することによりMFPが削減されたが,11%の物質のMFP値は10倍以上に上昇した。農薬やPTPWsの部分構造とMFP値の関係を検討した結果,アニリン構造を有する農薬・PTPWsは,塩素処理により変異原性物質を生成しやすいことが示唆された。

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© 2016 社団法人 環境科学会
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