日本転倒予防学会誌
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原著
要介護者における転倒による重篤な外傷の発生頻度および特徴
~医療・介護を要する在宅患者の転倒に関する多施設共同前向き研究(J-FALLS)~
饗場 郁子齋藤 由扶子吉岡 勝松尾 秀徳藤村 晴俊乾 俊夫川井 充飛田 宗重千田 圭二金子 真理子松田 直美玉腰 暁子
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キーワード: 転倒, 外傷, 要介護者, 骨折, 発生率
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2015 年 2 巻 1 号 p. 19-33

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抄録

【目的】要介護状態にある在宅患者の転倒および転倒による重篤な外傷の発生頻度および重篤な外傷に至った転倒の特徴を,1 年間の前向き調査により明らかにする。【方法】対象は国立病院機構44 施設へ通院し,介護保険制度にて要介護・要支援と認定されている在宅患者1,415 例。男性631 例,女性784 例。年齢75.5 ± 9.6(41 ~ 103)歳。登録時に基本情報,転倒に関する問診,介護保険主治医意見書の項目,薬剤(転倒危険薬・骨粗鬆症治療薬)を調査し,神経内科専門医が運動機能・認知機能を評価後,1年間転倒および転倒による重篤な有害事象(骨折,入院を要する外傷,死亡)を前向きに観察し,年間発生率(1 年当たりの転倒による重篤な外傷を生じた人数/対象人数),および100 人年当たりの発生頻度を求めた。転倒による重篤な外傷が発生した場合には,詳細な調査を行い,発生6 か月目の移動能力,要介護度などを調査した。【結果】転倒による重篤な外傷は1,415 名中94 名(6.6 %),100 人年当たり8.93 発生した。内訳は骨折85 名(6.0 %,8.08 / 100 人年),入院を要する外傷47 名(3.3 %,4.47 / 100 人年),死亡0 名。転倒した患者は不明33 名を除いた1,382 名中806 名(58.3 %)であった。骨折部位は上肢21 件(1.5 %),脊椎19 件(1.3 %),肋骨16 件(1.1 %),大腿骨頸部14 件(1.0 %)。重篤な外傷に至った転倒は,屋内が63 件(67.0 %)と多く,特に居間が19 件(20.2 %)と最も多かった。歩行中が最も多く37 件(39.4 %),次いで歩き出す13 件(13.8 %),立ち上がる13 件(13.8 %)が同程度であった。状況はバランスを崩して62 件(66.0 %)が圧倒的に多かった。転倒のきっかけとなった行動は,排泄14件(14.9 %),物をとろうとして12 件(12.8 %)であった。ぶつかった物はフローリングが最も多く,次いでコンクリート17 件(18.1 %)であった。重篤な外傷発生6 か月後,有意に移動能力は低下し,在宅復帰できていたのは81.6 %,入院中13.8 %,施設入所4.6 %であった。受傷前に比べ移動能力,要介護度ともに有意に悪化していた(p < 0.001)。【結論】わが国における要介護在宅患者の転倒による重篤な外傷発生率は地域高齢者の約3 倍であった。重篤な外傷発生後,移動能力は有意に悪化し,在宅復帰できていたのは約8 割であった。

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