哺乳類科学
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総説
絶滅のおそれのある九州のニホンリス,ニホンモモンガ, およびムササビ
―過去の生息記録と現状および課題―
安田 雅俊
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2007 年 47 巻 2 号 p. 195-206

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抄録

九州において絶滅のおそれのある樹上性リス類(ニホンリス,ニホンモモンガ,およびムササビ)3種について,江戸時代中期以降の各種資料(論文や報告,鳥獣関係統計,毛皮取引の記録等)をとりまとめ,生息記録と利用の変遷,および現在おかれている状況を種ごとに記述した.また,国,九州本土7県,および日本哺乳類学会のレッドデータブックにおける3種の取り扱いを比較した.九州において,(1)ニホンリスは狩猟による捕獲等の記録はあるものの,過去100年間以上,標本を伴った確実な生息情報がないこと,(2)ニホンモモンガは過去50年間の生息情報が極めて限られていること,および(3)近年ムササビの分布域が縮小してきていることが明らかとなった.これらの種の分布域の縮小に関連してきたと推察される要因として,戦後の拡大造林による天然林ハビタットの減少,樹洞や餌資源の減少,先史時代から続いてきた狩猟圧等を列挙した.今後の課題は,第一にニホンリスとニホンモモンガの残された個体群の探索であり,第二にそれぞれの種の分布域の縮小に,どの要因が,いつ,どれほど寄与したのかを解明することである.九州の絶滅のおそれのある樹上性リス類の保全は,県単位で対処できる課題ではなく,地方レベルで対処すべき課題であり,九州地方版のレッドデータブックの作成が考慮されるべきである.信頼性のある生息情報の収集に努め,残された個体群ごとに適切な保全策を講じるために,国の行政機関による強いイニシアチブの発揮が望まれる.

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© 2007 日本哺乳類学会
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