哺乳類科学
Online ISSN : 1881-526X
Print ISSN : 0385-437X
ISSN-L : 0385-437X
特集『日本におけるクマ類の保護管理の現状と課題2012-2013』
III.保護管理の三本柱:PDCAサイクルに基づく現状と課題の整理
近藤 麻実小坂井 千夏有本 勲伊藤 哲治後藤 優介中下 留美子中村 幸子間野 勉
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 55 巻 2 号 p. 265-282

詳細
抄録

クマ類(ヒグマUrsus arctosおよびツキノワグマU. thibetanus)の保護管理を適切に進めていくためには,現状や課題を予め把握した上で効果的な保護管理手法を選択することが重要である.そこで本稿は,日本哺乳類学会保護管理専門委員会クマ保護管理検討作業部会が都道府県の鳥獣行政担当者を対象に実施したアンケート調査結果や各都道府県の保護管理計画,出没対応マニュアル等を基に,研究者や都道府県および市町村の鳥獣行政担当者等が全国におけるクマ類の保護管理の現状と課題について概観できる基礎資料を作成することを目的とした.現状と課題の整理にあたっては,全国における取り組みを,保護管理の三本柱(個体群管理・被害管理・生息地管理)と,三本柱全体に関わる普及啓発および人材育成に分類してとりまとめた.個体群管理については,個体の問題度に合わせて対応を変える「個体管理」の考え方が多くの県で取り入れられるようになったことがわかった.一方で,総捕獲数管理における捕殺数の調整の難しさと,個体数や個体群動態の推定精度について課題が集中した.被害管理の取り組みは広がっていたが,達成状況を評価するための指標は未確立であった.被害管理は獣種を問わず重要であることから,他獣種を含めた総合的な指標の開発について検討する必要があるだろう.生息地管理を管理目標の一つに定める県は多かったが,具体的な取り組みを実施している県はほとんど無かった.具体的な取り組み内容とその評価手法について,中長期的な視点で検討していく必要がある.普及啓発としては,被害管理に関する事業が多く実施されていた.保護管理の推進のため,今後は普及効果の検証も実施すべきである.人材育成については,狩猟者への技術研修や資金的な補助事業が行われていた.一方で,保護管理全般に関わる担い手については,地域に専門員を配置する県が西日本を中心に増加したものの,全国的に取り組みは不足していた.都道府県や市町村の鳥獣行政担当者は必ずしも野生動物の保護管理に詳しいとは限らない.研究者には,都道府県や市町村の行政担当者に対する技術支援が求められる.その他,環境省の作成するガイドラインが都道府県の鳥獣行政担当者にとってわかりやすいものになるよう,クマ類の保護管理の現状と課題を踏まえた上で,環境省に対する助言や補足資料の提示等,時宜を得た対処も必要である.

著者関連情報
© 2015 日本哺乳類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top