飽和疎水鎖を有するホスファチジルコリン(C18:0-PC、O-C18:0-PC)および不飽和疎水鎖を有するホスファチジルエタノールアミン(C18:1(cis)-PE、C18:1(trans)-PE)が形成するリン脂質膜の二分子膜-非二分子膜相転移熱力学量を常圧下における示差走査熱量測定と高圧下における光透過率測定から決定した。これらリン脂質の非二分子膜形成の熱力学量は、それぞれのリン脂質のゲル-液晶あるいは結晶-液晶と言った二分子膜間の相転移のものよりも著しく小さかった。非二分子膜形成はラメラ構造から指組み構造あるいは逆へキサゴナル構造のような非ラメラ構造への動的変化に対応するが、その小さな熱力学量から両構造中における脂質分子の秩序性はあまり変化しないと言える。二分子膜-非二分子膜転移の注目すべき特徴は、その転移温度の圧力依存性が二分子膜-二分子膜転移のものと比較して大きいことで、この事実は二分子膜-非二分子膜間の構造変化は加圧により顕著に影響を受けることを示唆する。二分子膜-非二分子膜転移の熱および体積挙動を二分子膜-二分子膜転移のものと比較し、二分子膜-非二分子膜転移は分子充填の再構成に関する体積駆動の転移であると結論づけた。