感染症学雑誌
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原著
Extended-spectrum β lactamase(ESBL)産生大腸菌が分離された上部尿路感染症の乳児 4 例
日比野 聡福地 邦彦阿部 祥英星野 顕宏櫻井 俊輔三川 武志冨家 俊弥吉田 耕一郎板橋 家頭夫
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2011 年 85 巻 5 号 p. 481-487

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抄録

Extended spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌は成人の尿検体由来株での分離が多く,多剤耐性であるために院内感染の原因菌として問題視されている.また,近年では市中感染の報告も増加しているが,本邦において乳児の上部尿路感染症(Urinary tract infection;UTI)を引き起こすという報告は少ない.今回,遺伝子検査により ESBL 産生大腸菌による初発の上部 UTI と診断した乳児 4 例を経験したので報告する.各症例の病歴,薬剤感受性検査,使用抗菌薬とその効果,基礎疾患の有無は診療録から後方視的に検討した.1 例は菌血症で入院歴があり,2 例は抗菌薬の投与後に罹患しており,ESBL 産生菌への罹患要因として抗菌薬使用が疑われたが,感染経路を特定できた症例はなかった.基礎疾患として 2 例に両側膀胱尿管逆流現象を認め,腎シンチグラフィを施行された 3 例において,感染後早期には全例とも欠損像を認めたが,腎瘢痕形成を認めたのは 1 例のみであった.ESBL 遺伝子型は 1 例がCTX-M3,3 例が CTX-M14 で全て CTX-M 型の酵素産生株であった.全株ともに薬剤感受性検査でセファロスポリン系抗菌薬に耐性を示したが,2 例は cefazolin,1 例は ceftazidime を使用して臨床効果を得た点で薬剤感受性検査結果との相違を認めた.1 例は最終的に panipenem/betamipron が有効であり,敗血症や髄膜炎に進展した症例はなかった.退院後は全例に抗菌薬の予防投与を行い,再感染は認めなかった.本邦において ESBL 産生菌による感染症は増加しており,乳児の上部 UTI は初感染でも ESBL 産生菌が起因菌になりうることに留意すべきである.

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© 2011 社団法人 日本感染症学会
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